【完】山崎さんちのすすむくん



それでも教えれば夕美は黙々とそれを写していく。


初めは具(ツブサ)に注意が必要だったものの、何度か繰り返すうちに下手糞ながらも見ずに書けるまでになり。


それではと今度は漸く出番となった往来物を付きっきりで読ませていく。


教育を目的に作られたこれは、ほぼ全てに仮名で読みがうってある。それ故読みに慣れさせるにはもってこいだ。


「うぅ目がちかちかする……」

「まぁゆっくりでええ。わかり難かったら空いてるとこに覚え書きでも残しとき」

「何でこんなとこまで来て勉強を……」


ぶつくさ言いながらも夕美は鞄から矢鱈と派手な棒を取り出す。


「何やそれ?」

「シャーペンって言って筆みたいなものですよ、ほら」


と紙に綴る文字は昨夜見たあの文と同じものだった。


へぇ、墨がいらんのか。そら便利やな。


「……見ても良い?」

「どーぞ」


昂る好奇心をひた隠し、何でもない風にそれを受け取る。


ほぉ、このほっそいのが墨代わりかなんか。


相変わらず見たこともない材質のそれには昨夜の紙と同じ、奇妙な生き物らしき絵が描かれていて。


「これ何なん?」

「んー何て言ったらいいのかな……鼠の……人形?」


これが……鼠?


可笑しな形姿やし、目ぇも耳も異様にでかいし、立っとるし、それに何か……笑てんねやけど。


動物て笑うんか? 俺が知らんだけか? 今度屋根裏で会うたら笑いかけてみるか?


……や、流石にそれは人としてあかん気が。


あ、もしかして付喪神とか?


うん、せや! 何でか知らんが先の世では有名になってて、多分御守り的な意味で描かれてたりするんやわ!




「……ちょ、何突然拝んでるんですか?」

「や、一応挨拶を」

「……はい?」


鼠仲間っちゅうことで。
何か御利益ありますように。