衿を掴むのは容赦のない力。


当然だ、仮にも一度は本気で惚れた女子が姉と同じように姿を消したのだから。


間違いなく脳裏にはあの時の事が思い出されている筈。


きっとその痛みはことの顛末を知る俺よりも、強い。


鋭い眼差しの奥に揺らぎを覗かせる林五郎を見ていると、一瞬、全てを話してしまおうかとも思えたが。


それでも元より信じがたい話である上、何より未だ俺自身頭が整理しきれていない。


とてもじゃないがこの頭に血が上った林五郎に信じさせる自信はなかった。



「……すまん」

「すまんやないやろ! 何ボケッとしとんねん、自分も探しに行けやっ!」


どん、と胸を押されて。


数歩離れた場所から俺を睨む林五郎の視線が刺さる。


けれど、


「……すまん、今はほっといてくれ」


取り繕う余裕は、まだない。


「あ……阿呆か! 早よ探さな」

「今は無理やねんっ!」


我知らず大きくなった声に、僅かに林五郎がたじろく。


「……すまん、わかってくれ」


再び掴み掛かってきたその手首からそっと手を離すと、俺を見る真っ直ぐな目から逃れるようにして、林五郎から背を向けた。


少し離れた所から数人の隊士達が何事かといった様子で俺達を窺っているが、俺が消えればそれも散るだろう。



「……っ、見損なったわ」



背に届いた呟きにすら、この足は止まらなかった。