「……りんちゃんは、元気ですか?」
……今?
甘い空気漂う中、何故今あいつの名がと突っ込みたくなるのを何とか飲み込む。
「まぁ、うん、元気やで?」
漸くぽんとその背に手を置いて返した言葉が、疑問系になったのは仕方ない。
「私、烝さんが凄く好きです」
けれど次に続いたのはまたも繋がらないちぐはぐな言葉。
言葉自体は嬉しいはずなのに、その感情よりも不思議な違和感の方が勝ってしまう。
「……俺も、やけど」
「この三年半、すっごく楽しかった」
ちょい待ち。
なんかそれ可笑しない?
まるでなんや、その、別れ際、みたいな……。
顔を上げないままぽそりぽそりと言いたいことだけを口にする夕美に、違和感は大きく膨れ上がっていく。
「何言うて」
「もう、大丈夫ですよね」
嫌な予感となって。
何かを悟ったような口振り、別れ言葉の切なさを纏うその声が俺の中の細い糸を震わせる。
とくり とくり
指先に嫌な脈を感じて、思わずその体を抱き締めた。
何処にも行かないように。
消えてしまわないように。
「やっぱり私は前向きにしたいことをしてる烝さんが好き」
……、っ。
「大好き」
「ゆ……っ!」
ぎゅっと腕に力を入れた刹那、支えを失ったように体がガクリと傾く。
微かな衣擦れの音をたてて膝に落ちたのは主を無くした着物で、
部屋にはもう、誰の気配もなかった。