ぺしっと一発俺の腕を叩いて、夕美はゆっくりと掌に乗った櫛へと視線を落とした。


描かれた花をその小さな細い指でそっと撫でる。


うっすらと口許を綻ばせ、大切な何かに触れるように優しく。


それはあまりにも穏やかで、


……あいつも似たよな顔しとったっけ。


つい琴尾にそれを渡した時のことを思い出す。


チクリと微かに疼いた罪悪感はどちらへのものなのか自分でもよくわからなかったけれど。


少しだけ長い瞬きをして、今だけは、とその記憶を奥へと仕舞い込んだ。




「烝ちゃん」

「ん?」


不意に呼ばれた名にそちらを向けば、焦点が合う間もなく柔らかな感触が唇に触れた。


そう、唇に。


「……っ!?」


それが何かを理解した時には夕美は顔を隠すように、俯き加減で俺にがしりと抱き付いていて。


……お初!


未だかつて夕美からされることのなかったそれは思いの外嬉しくて、頭の隅に引っ掛かった靄(モヤ)を一瞬にして吹き飛ばす。


や、此処はあかん。

あかんやろ。

あかんて。


つい歯止めが効かなくなる気がして、夕美の背に回した腕を宙に浮かせたまま悶々と葛藤を続けていると、胸の中のそいつがくぐもった声を上げた。