刻の止まった夕美。
いつかこっから消えるかもしれん夕美。
下手に期待させてまうことを考えたら、親に言うんは難しいかもしれん。
ちゃんとした祝言はあげられへんかもしれん。
けど、それでも俺はこいつといたいんや。
真っ直ぐにその顔を見つめて決意を口にした俺に、夕美は意思の読めない眼を覗かせる。
「……一緒」
漸く一言ぽそりと呟いた夕美は口を半開きにしたまま、またぽかんと固まった。
「……いっ……」
その先を待ってじっと様子を見ていると、反芻するようにたった一言を発してまた固まって。
固まって。
固まって。
……意味わかってるよなぁ?
「ゆ」
「一緒って! 一緒ってけっ、けけ結婚ってことですよね!?」
「……けっこん?」
口を開きかけた俺の袖を突然握った夕美の言葉は耳慣れないもの。
若干の不安を胸に聞き返す俺に、夕美は言い辛そうに一瞬視線を逸らしておどおどと上目に俺を見た。
「その、……お嫁さんになる、ってことですか?」
仄かに紅潮した頬が恐ろしく、可愛い。
「ん、あかん?」
その反応に既に答えは決まっているものにも思えたが、あえて聞き返したのはその口からの言葉が欲しいから。
「や! あかんく……ないです」
尻窄みに小さくなっていく声に反して俺の笑みは深くなる。
「ほなこれ」
きゅっと袖を摘まむ手をそっと剥がすと、懐に入れていたものをその掌に置いた。
「受け取って?」
艶やかな深い光を映すそれは、黒漆が塗られた櫛。
最初の頃『遠慮します』と言われたそれを、まさか本当に渡すことになるとは思っていなかった。
「自分の花やろ?」
紫色した丸くて可愛らしい桔梗の花。
それは、
「もうっ」
と膨れるそいつによく似合う、匂袋と同じ、初めて俺たちを繋いだ花だ。


