「私の居場所は此処だけです」



そう、そんなことは問題ではない。


例え行く先に暗雲が立ち込めていようと、俺が仕えるのは土方歳三そのお方ただ一人。


あの日あの時、ついてゆくと決めたのだ。


一時の気の揺らぎや時勢の流れで己が保身に走るなど有り得ない。


乱破として──父の息子として。


俺の主はあとにも先にもあのお方だけなんや。




静かな部屋。


隙間風にゆらゆらと揺れる橙の灯りを受けたそいつの眼には俺の顔が映っている。


強気に口角を上げた、俺が。




「……勿体無い」


溜め息混じりで呟いたそいつは確かに『賢い』んだろう。


漸くこいつの見ているものがわかった気がした。


人を使い、あくまで自分は裏方に徹しながらも思う方向へと進ませる。


駄目だと思えば即座に次へと乗り換える。


此処へ来たのも、此処から去るのも、その時々のより良い道をただ選んでいるだけ。


そこには情も何もない。


利己的な算段がなされているだけだ。


別に、そんな生き方を悪いとは言わない。


それも世を渡る一つの術(スベ)。この乱世を生き抜く手堅い方法。


ただ俺とは価値観が違う、それだけだ。



「そうでもありませんよ」


得るものも多くある。


俺にとっては乾いた心で生きるより、険しくとも人の情の中で生きる方がよっぽど良いのだから。


そんな思いで顔を綻ばせる。


といきなりその手が俺の頭を引き寄せた。



「やはり最後ぐら」

「死にさらせ」



驚く間もなく近付いた篠原の顔を鷲掴みに張り倒してやった己の反応の素早さに、我ながら感心した。