【完】山崎さんちのすすむくん


影が落ちていた顔を、行灯の淡い明かりが仄かに照らしたことによって漸く見えたもの。


僅かに濡れた、目許だ。


……泣いとんか。


乾ききっていないところを見ると夢でも見ながらなのだろうが。


幼いとは言えない年齢でも、能天気に見えても、やはり内では不安に苛まれているんだろう。


突如勝手の違う見知らぬ場所へ放り出され、帰り方すらわからぬとなれば当然だ。


……。


目頭に溜まった涙を指でそっと拭う。


それでも、いつまでもお前さん一人にかまけてばかりもおれへんのや。


俺には俺のやるべき責務がある。


一人でも多くの人を守る為に、


悲しませへんように、


俺は新選組隊士としてあのお方に仕え、不逞の輩からこの町を守る為に尽力すると、あの時決めたんやから。



……すまんな。


少しだけ長い瞬きをして気持ちを切り替え、ぽんとその頭に手を触れ立ち上がった。


土間近くに置いた行灯の側に腰を下ろし、懐から小さな冊子と矢立(携帯用の筆記具)を取り出すと簡単に今日の出来事を綴る。


ちょこの感動は是非とも書き記しておかなあかんしな!


思わず頬が緩みそうになったところで、ふと手が止まる。


そして懐から取り出したのはさっきの紙。


……まさか夕美が楷書を書けるとは思わんかったな。


もしかすると、そうは見えんけど、実は賢いんか?


……明日は学問的なとこをちょい確認してみるとしよか。


ふーふーと墨を乾かすと、ぱたりと冊子を閉じ懐へと戻す。



烝ちゃんの寺子屋、一丁開塾といきますか。