それはつまり……
「此処が沈みゆく船だと?」
ということ。
思いの外低くなった声。ふつりと湧いた怒りの種に目が据わる。
掛けかけたかいまきを戻し再び篠原に体を向けると、そいつは笑みを残しつつも真剣味を帯びた眼で此方を向いていた。
「貴殿も、薄々わかっているのだろう?」
緩やかに弧を描いたその薄い唇から発せられる声が嫌に勘に障る。
人を見透かすようなその黒く細い目が居心地の悪さと苛立ちを呼んだ。
たかがそんなことで感情が波打つ理由は一つ。
俺の奥底にあった小さな疑問をつつくその言葉が、痛かったから。
咄嗟に否定の言葉が出なかったのはきっと、その所為だ。
「山崎殿、今からでもいい、共に来ないか? 賢い貴殿なら時勢の風向きくらい読めるだろう?」
そんなことは言われずとも。
無言で睨み続ける俺の頬を再び伸びてきた指がするりと滑る。
確かに、風は向こうに吹いている。
先の戦いでも休戦という形で一応の面目を保ったものの、幕府の敗けは周知の事実。
長く続いた平安は今脆さを見せ始め、幕府に以前程の力がないのもまた事実だ。
そしてそれはこの新選組においても同じく。
大きく膨れた組織は強くもあるが弱くもある。
女遊びや傲慢さが目立ち、求心力を失いつつある局長から伊東参謀に乗り換えた連中が良い例。
力は時として目的を霞ませる。
力を得ることのみが目的へとすり替わる。
そんな局長のかつての幻影を追い続ける副長もまた然りなのかもしれない、が。