近くの店で飯を掻き込み、何人かの知り合いに声をかけられつつも戻ってきた家。
広くもない、物もないそこを案内するのはあっという間で。
一通り見て回ると、入ってすぐの診察に使っていた部屋に腰を下ろし、夕美に乞われるまま俺は昔の話をした。
まだ皆が幼かった頃のこと。
家族のこと。
父にしごかれたこと。
何故か琴尾と恋仲になったきっかけや、祝言をあげることになった時のことまでも根掘り葉掘り。
「意外とロマンチストですよね」
なんて笑う夕美は気が抜ける程に自然で。
「ろまんちすとて?」
「んーさぁ?」
こんな時にだけ未来の言葉を使うこいつは狡いと思う。
暖をとるものもなく、流石に寒そうに手を擦る夕美を膝の間に座らせてその背に体を預けて言葉を交わす。
時には夕美の話にも耳を傾け。
互いが互いに気を遣い、『今』だけを話してきたこれまでとはまた違う、穏やかな刻。
此処だからこそ思い出すような他愛のない小さな話までぽそり、ぽそり。
懐かしくて、温かくて。我知らず頬が緩んでいる。
そんな俺の話を夕美は静かに相槌をうち、時に質問を交えて聞いてくれて。
瞬く間に過ぎた刻に、気付けば差し込む光も随分と位置が変わっていた。
「……何してたん?」
戸締まりをして表に出ると、裏からひょっこりと顔を出した夕美は少しだけ落ち着いた笑みを浮かべて。
「挨拶を」
なんて言うから、またその頭をそっと撫でた。
「帰ろか」
「はいっ」
次に来る時が此処を訪れる最後になるかもしれない。
が、手放す寂しさは思っているものよりもずっと軽くなるような気がした。


