いる、と思った場所にその姿はなくて。
然程広くないこの家では俺が気付かずに夕美が中へ入り込むということはまずない。
外か?
僅かに首を傾げて一旦玄関から外に出ると、そのまま建物に沿って敷地内を進む。
奥にあるのは庭と呼ぶには少々小さい猫の額程の開けた場所。
そこにはまだ若く細い桜の木があって。昔はその枝先に僅かに咲く花を琴尾と二人で眺めたもの。
いつの間にか今年も蕾を膨らませていたその茶色い木の下でそれを仰ぎ見るようにして、そいつはいた。
そっと幹に触れ、横に延びた枝を眺める夕美の姿は違和感なく景色に溶け込んでいて。
否が応にも一瞬、琴尾と重なって見えた。
……んな訳あるかい。
そんな思いを振り払うべく、ふるりと首を振って、止まっていた足を再び前へと動かした。
「夕美」
「あ、烝さん」
俺の声にぱっと顔を向けた夕美はいつものそいつ。
それに少しだけ安堵して、何でもないようにその脇に立った。
「どしたん?」
「あ、何となく甘い匂いがした気がして……でも気の所為でした」
「……腹減ったんやったら何か食いにくか?」
「違いますっ!」
と言う声を遮るように鳴ったのは、夕美の腹。
「……そりゃお腹も減りましたけど」
ぽそり、気不味く頬を膨らしたそいつに吹き出して。
「ほれみぃ」
それが今日一番に空気が和んだ瞬間だった。


