正直、この数日頭の中はずっとあの日のことが居座っていた。
仕事中だと振り払っても、それは再び霧のようにふわふわと漂いそしてまた振り払うの繰り返し。
いつの間にかそれ程までに俺の中で大きくなったその存在に我ながら驚いて……認めた。
感情に優劣はつけられない、つけたくない。
が今の俺にとっては夕美が、大切なのだ。
「……プロポーズ」
「……ぷろぽーず?」
暫く呆気にとられたように固まっていた夕美が漸く口にしたのは聞いたこともない言葉で。
思わず復唱した俺に、呆れた苦笑いが返ってきた。
「や、何でもないです。それならいいんです、嬉しいです。……さ、遅くなっちゃいますしそろそろ行きましょっか」
そう言って今日初めて指を絡めてきたそいつの手に引かれ、半ば無理矢理に歩き出す。
「……そんなの、無理だってわかってますもん」
直後、前を向いたまま呟かれたそれは本当に小さくて。
それが纏う切ない響きと、同時に強く握り締められたその指に、何となくだが言いたいことがわかったような気がした。
少しの嬉しさと、どうすることも出来ないもどかしさが複雑に入り交じるが。
……ん。
それは俺に一つの決意をもたらせた。
今はまだ伝えられないそれの代わりに、俺はぎゅっと手を握り返した。


