あそこ、とは俺が町医を営んでいたあの家。
俺と琴尾が五年の月日を過ごしたそこが見たい──それが夕美の願いだった。
確かに、思い出深い場所ではある。
行けば間違いなく仕舞われた記憶が零れるのはわかっている。
それだけあいつと過ごした日々は俺の一部として染み込んでいるから。
それでも、過去は過去だ。
もうそれに囚われ続けるつもりなどない。
「別に思い出したないさかいに売るんとちゃうで? あっこはもう、今の俺には必要あらへんのや」
俺が生きる場所は新選組。
それに、
「守らなあかんもんがあるからな」
この町も、お前さんも。
大切なもんが増えた今、後ろばっか見て歩いてコケてまう訳にはいかんのや。
時勢は何やら怪しい雲行き。
これは俺の気を引き締める為の新たな区切りでもあった。
「過ごした刻は消えん、けど俺らにはまだこれからがある。もしかしたらまたたまに嫌な思いさせてまうかもしれんけどや……」
その申し訳なさに首の後ろを掻いて一瞬目を逸らす。
だが、だからこそこれだけは言っておかなければならなかった。
「それでも、お前さんには傍におって欲しいねん」
勝手、やけどな。


