半刻程の講義が終わり、障子が開かれると途端に冷たい風が脇をすり抜けていく。


夏程でないにしろ、男臭い熱気が籠った部屋からやっと解放されると実感出来る瞬間だ。




「おい、まただぜ」


部屋を出ようと立ち上がったところで、近くにいた連中がヒソヒソと囁く。


その視線の先にあるのは伊東参謀と──斎藤くん。


にこやか、とは言えないものの、普段より幾分表情を和らげて参謀と話す斎藤くんは確かに意外過ぎて目立つ。



「やっぱり伊東さんすげぇよ、斎藤助勤もあの人と喋ってる時はいつもと違うし」

「ああ、尊敬出来るしな」

「鬼よりよっぽど良いぜ」



そんなことを話しながら出ていく彼らの後ろを歩き、俺もまた何事もなく部屋をあとにした。






少しして、稽古に使う先に布を巻いた棒を持ち、太鼓楼の裏手に足を運んでみる。


するとそこでは案の定風を切る音が鳴り響いていた。


……やっぱしな。




「相手が欲しければ、私など如何ですか?」


木刀で一人素振りをするその後ろ姿に声をかけると、その人は特段驚いた様子もなくゆっくりと此方を振り返った。


「相手になっていただけるのならば喜んで」


いつもの無表情な斎藤くんだ。


ただその纏う空気は肌が粟立つ程にピリピリしている。


「無理して笑うからですよ」

「……ああするのが一番でしょう?」


せやかて後々こない苛々されたらかなんわい。