「……っぷはっ!! っげほっごほっごほっ!!」


岸に刺さった杭をがしりと掴んでどうにか体を支え、最後の力を振り絞り濁流の中から這い出る。


し、死ぬか思た……まさに三途の川や……。


ぱたり、とこのまま倒れてしまいたいがそういう訳にもいかない。


流されぬようにとなんとか帯で体にくくりつけた人間を背から下ろす。


それは若い女だった。


けれど。


「……なんやこの恰好……」


川の中ではよくわからなかったそれは、見たこともない白い着物に深い紺色の羽織のような物を重ね、更にその裾は膝が見える程に短いもので。


異人か? 見る限り俺らと変わらんようやけど……。


「って、息してへん!?」


冷たい水の中にどのくらいいたのか、消えてしまいそうに白いその体はピクリとも動かない。


まだいける筈や! 早よう息戻さんと!


くいと顎を上げ素早く気道を確保する。そして鼻を摘まむとそのまま大きく息を吸い込み、


「……っ」


女の口へと吹き込んだ。


死にな……死になや!? せやないと俺まで死にそうになって助けた意味あらへんさかいな……!


様子を見ながら何度かそれを繰り返す。




「……っ、ごぼ! ごふっごほっごほっ!!」

「!」


濁った水を吐き、暫く咳き込むと女は再びぐったりと動かなくなった。


しかしながら今度は胸が僅かに上下している。


「……はぁーーっ……」


それを確認すると漸く俺は大きく息を吐き、仰向けに寝転がった。


取り敢えずもう大丈夫や……


けど。


むくりと上半身を起こし、女を見る。


珍妙な格好の女を。



「……どうすんねんこれ……」