夫婦……夫婦?


「や、ちゃうし」


あり得んし。


酒の所為か意味不明過ぎる言葉の所為か。ゆっくりとその言葉を頭で反芻したところで漸く突っ込みが漏れる。


だが。



「もぉ照れちゃってーそんな赤い顔で言われても駄目れすよー」

「照れてへん照れてへんそれ多分きっと酒の所為っ」

「たまには良いじゃないれすかぁーさーお柚ちゃん今宵は二人でめくるめく一夜をー」


貞操の危機っ!


ぶちゅーと音のしそうなタコ口で近付いてきた吉村くんには、流石にこれ以上大人しく口で説得しても意味がない。


「一人で寝とけっ!」

「ぶっ!?」


僅かに腰を浮かせると膝を引き寄せ、渾身の力を籠めてそいつのケツに膝蹴りを入れた。


その勢いで大きく上にずれた吉村くんは、お望み通り畳と熱い口付けを交わす。


相当頭が揺れたのか、そのまま動かなくなったのを確認すると、俺は振り上げていた手をそっと下ろした。


起き上がってくるよぉやったら一発手刀かましてやるとこやったわ。


一人でめくるめいとけ。


尺取り虫の如く突き出た尻を蹴飛ばし、最後の良心でかいまきを掛けてやる。


少々着崩れた着物はそのままに腰を下ろすと、俺は漸く一人静かに残った酒を頂くことにした。



朝、全ての記憶がすっぽり消えていた吉村くんはある意味天晴れだ。


それでも隊務は続く。


昨夜のあれは酔っ払いの戯れ言と、なかったことにしてやった俺は中々大人だと思う。