パンッ!、と心地良い音を鳴らして真っ赤錦鯉が泳ぐそれを篠原の目の前に広げる。


端に書かれた土方歳三の文字に漸くそいつも納得したようで、にやけ顔からいつもの仏頂面へと表情を戻した。


「そうか…………残念」


おい、最後に妙なことを呟くな。小さぁてもばっちし聞こえとるんやからなっ!


ちゅかどーも伊東参謀がおらんくなってから目に見えてこいつに絡まれるん増えた気ぃするわ……一番のお気に入りがおらんからやろか。


はー……早よ帰ってきてほしわぁ。


勿論それは心が訴える切実な願いだが、冷静な部分では好機だ囁く俺もいる。



「……ところで、此度の局長殿の安芸行き、篠原さんはどう思われますか?」


軽く探りを入れてみようと、僅かに口角を上げて問うてみる。


刹那、元より目付きの悪い篠原の眼が鋭い光を宿す。


「……何故?」


意識していないと分からぬ程微かに下がった声音がそれの警戒心を表していた。


やっぱそう簡単には尻尾を見せんか……けど何か思うとこはありそやな。


それが分かれば十分や。


「私共諸士調役としては彼方の動向を詳しく知る必要があります。面が割れていない分動きも取りやすい。なのにどうして供に選ばれなかったのかと思いましてね」


不自然でない程度に笑みを浮かべ、当たり障りなく答えれば幾分その警戒は和らぐ。


「……確かに。だが今回は訊問使に紛れ行くのだ、あまり多勢になる訳にいくまい。まぁもし次があるならば是非とも私も行きたいものだがな」


薄く笑うそいつに、そうですね、と返すと短い別れの言葉を口にし爪先の向きを変えた。


が。