何度か練習し、やっと一人で上手く簪が扱えるようになった夕美が満面の笑みを浮かべる。


ほらほらと、出来上がった団子を嬉しそうに見せびらかすその様子に俺まで口角が上がった。


「ん、良かったな」

「へへ、これでずっと付けてられます」


またかいらしことを。


その後ろで揺れる白っぽい薄の穂が夕美のはにかんだ笑いを引き立たせる。


すっきりと上げられた髪が、少しだけそいつを大人に見せた。


子供っぽかったり急に大人びてみたり。


女子っちゅうんは変わり身早ようてホンマ怖いなー。


ポリポリと頬を掻きそう思ってはみるものの、そんな夕美に魅せられ惹かれたのは紛れもない俺自身で。


そんな自分に突っ込みを入れるように俺はくすりと笑みを溢した。



「じっとしぃ」


幸い辺りには誰もいない。


仄かに茜色を帯び始めた空を往く烏とトンボ、そして足元から伸びた俺達の影だけ。


さっきと同じように声をかけると薄の陰でそっと唇を啄む。



「……期待、」

「してませんっ!」


俺の言葉尻を奪い、見る間に頬を赤らめた夕美に微笑んで、


「そろそろ、行こか」


俺は再びその手を取った。



「まさかホントにするとは……」

「……流石に此処は俺もちと緊張したわ」


絡めた指から体温が混じり、胸に温かさが宿る。ただそれだけで日頃張り詰め緊張している心が満たされていく。


皆はあれこれ言うけれど、きっと今の俺達はこれくらいの距離が丁度良いのだ。