『そうか』
ありのままの事実だけを報告をすれば、副長はほんの一瞬何かを思案するように目を伏せた。
すぐにいつものその人へと戻られたが聡明なお方だ、きっと何かを感じ取られたに違いない。
そんな今日のところの報告を終え部屋へ戻ると憂鬱……もとい仕事が待っている。
「ああ、お疲れ様です」
篠原という難題が。
「……お疲れ様、です」
布団の上で本を読んでいたそいつは、いつも俺が部屋に入るとそれを待っていたかのように本を閉じて横になる。
他の連中は既に高鼾(タカイビキ)をかいて夢の中。
薄暗い行灯が仄かに照らすこの静かな部屋、帯を解く俺の背に刺さる視線が痛い。
これは俺を参らす新手の手法なんやろか……。
「遅くにすみません。どうぞ先に寝てらして下さいね」
「否、本を読んでいたらこんな時刻になっていただけだ、山崎殿が気にされる必要はない」
や、ほならそない見んといて! めっさ気になってまうさかい!
着替えの度に刺さる視線に段々と身の危険すら感じる。
しかしだからと言って避けるばかりという訳にもいかない。
唯一堂々と近付ける伊東派なのだ。
ううっ、頑張れ俺っ!
「篠原さんはどのような本を読まれるんですか?」
素早く着替えを済ますと、布団を敷きつつ他愛ない話題を振ってみる。
篠原の布団により、日に日に壁際に追い詰められている気がするのはこの際気付いていないことにしよう。
漸く寝る準備が整ったところで篠原に目を向けた俺が見たもの。
ニヤリと妖しく笑むそいつ。
「気に、なりますか?」
……なるって言いたないわー……。


