「ふぁー……」
ちゃぷん、と音をたてて湯船に浸かると縁に頭を乗せ凭れかかった。
一日ぶりに浸かる湯は冷えきった体を芯から温め、ほぐしていく。
こんな時間から風呂に来るのは久々だ。
目を開けると蒸気に満ちた薄暗い浴室はそれなりに人で溢れているらしく、ガヤガヤとした話し声が耳に飛び込んでくる。
隣の誰それが向かいの誰それと喧嘩しただの、何処ぞの誰に子が生まれただのと、他愛ない世間話ばかり。
時折混じる浪人と言う単語に耳を澄ましてみても、汚い粗暴だ迷惑だと愚痴が交わされるだけ。
あまつさえそれらは段々『あんなんがおるさかい壬生狼みたいなようわからん連中まで彷徨きだしたんや』と妙な方へと派生する。
それには俺も苦笑いを浮かべるしかない。
まぁ確かにあれを取り締まる為に俺らは存在してるんやけどな。
土地柄なんはしゃーないけど、この内輪意識の強さは他所から来たもんに取っちゃあ中々に厄介やねんなぁ……。
こきこきと首を鳴らして立ち上がる。
これ以上いても特に実のある話は聞けそうにない。
何より夕美より後になる訳にいかないのだ。
一人で先出てふらふらされても困るしな。
……て、やっぱり餓鬼のお守りやないかい。
と一人突っ込んでみるも不思議と嫌な気持ちはしない。
我知らず頬を緩ませ石榴口(湯船の入り口)を抜けると手で適当に水滴を払い、俺は衣棚に向かった。


