無理矢理に言葉を被せてきた林五郎が、一気に猪口を煽る。



「忘れられへんのやったら、夕美は俺にちょーだいや」



にっこりとどこぞの小さな腹黒剣士を彷彿とさせる笑みでこっちを向いたそいつはもう、いつものそいつだった。


良からぬ影響を受け始めた林五郎に一抹の不安を抱きつつ、俺はその軽口に乗らせてもらうことにした。



「振られたクセに」

「ズバッと言い過ぎやズバッと」


途端にヒクッと頬を引きつらせた林五郎に目を細めて、俺もまた猪口を傾ける。


「どーせなら普通に口付けしたったら良かったわぁ」

「よぉない、絶対あかん」


しかしながらその言葉に直ぐ様目が据わった。


「相変わらずケチやなー俺かてそんくらいの役得もぉてもええんちゃうん?」

「……夕美から伝言や、『有り難う、また三人で会おうね』やと」

「三人かい。まぁえーけどあてられるんだけは勘弁やでー?」


カラカラと笑うそいつの本心まではわからない。


ただわかるのはその優しさと、もう子供ではないのだ、ということ。



……成長、しとるんやな。


まさかこいつとおんなし女子に恋慕するとは夢にも思わんかったけど。


けどよぉ考えたら昔から姉ちゃんこやったし……もしかして実は好みの女まで似とったり……?



「喧嘩したら俺がいつでも夕美慰めたるさかい、安心しとって」


なんとも微妙な事実に俺が顎を摘まんでいると、ニッと挑戦的な笑みが向けられる。


故に俺もまた強気に口角を上げた。


「そらおーきにや。せやけど心配には及ばんで、せぇへんから」



ん、夕美にもこいつにも後悔させんよう俺もしっかしよ。