前まで来ると夕美は大口を開けて建物を見やった。
「わー普通に銭湯だー」
そら普通の風呂やからな。
「……お前さんとこも風呂はこんなんか?」
「お風呂屋さんはそーですよ。こういうのは行ったことないですけど」
「こーゆうんとちゃうのもあんの?」
「スーパー銭湯とか楽しいですよ」
「すぅぱぁ?」
「はい! 綺麗だし広くて色々あって凄いんですっ」
色々あって、凄い……と?
……っ! あかんあかん! 風呂だけに想像がつい下にぃっ!!
ふるりと首を振って妙な妄想を吹き飛ばす。
さっさと入り方説明してまお。
「こほん、ええか? 入って直ぐに高座がある、そこでまず金子を払うんや。そしたら湯文字くれるし中にはそれ巻いて入る。脇の衣棚に着物入れたら鍵は髪に刺しときな。んで洗い場で体洗たら奥に湯があるわ。湯に入る時は『冷えものでございます』て一声かけてからやで。いけるか?」
「……た、多分……?」
……不安やな。
「まぁわからんかったら周り見ぃ」
溜め息を吐きながら早道(帯に下げる小銭入)から銭を取り出す。
「体洗うんは糠(ヌカ)使い。高座に言うたらええわ」
締めて十二文。
余りが出ないようにぴったりその額をその手に落とすと、夕美はまじまじとそれを見つめた。
「うわ、本物だぁ……」
「本物?」
「テレビ……じゃわかんないか。えっと、写真でしか見たことなかったから!」
写真……あのけーたいのヤツやな。
へぇ、これはそのうち使われんようになるんか……て! 今はんなとこのんびり突っ立っとる場合やあらへんな。
「話はまた追々な、取り敢えず風呂や風呂」
「う……は、はい! 行って、きます!」
心配やな……。
ごくりと唾を飲み込み暖簾を潜った夕美を見送ると、多少の不安は残しつつ漸く俺も中へと足を踏み入れた。


