夕美に回した腕にキュッと力を籠める。


もう匂袋の香りは殆ど薫らないものの、身を寄せれば不思議と落ち着く香りが鼻を擽る。


どこか懐かしく思えるその温もりに心が凪ぐ。


これ程近くに女子を感じることなど、あれ以来なかったから──





「……しゅ、しゅ、しゅしゅむしゃんっ!」



……、ん?


その矢鱈かみかみな言葉に、はたと気付く。


結構、否、かなり大胆な己の行動に。



「す、すまんっ」



ギューしてクンクンして落ち着くとか俺変っ態!


慌てて体を起こすも、足の間にすっぽりと座る夕美との距離は近い。


……えぇと、どないしよ?


一気に汗ばんだ手を己の太股に押し付け汗を拭う。


そんな時、夕美がちらりと振り向いた。



「少しは……落ち着きました?」


今はちゃうことでドッキドキしたけどな。


「……ん、なんや、すまんな」


ぽりりと頬を掻いて苦笑いすると、夕美も照れた笑いを見せる。


「なら、良かったです」


そんな夕美に些か心が軽くなるのを感じ、そっとその頭に手を置いた。


「お陰様で膨らんだわ」

「……何がですか?」


……ちゃうんかな。


「ほら、気落ちすることヘコむや言うとったやん。せやから膨らんでみてんけどちゃうん?」

「ぷっ。やだ違いますよー! それは普通に元気が出たとかで大丈夫です」


そーなんや。なんや難しなぁ。



吹き出し笑う夕美にちょっぴり恥ずかしさを覚えながらも、漸くいつもの空気になった俺達はそれからすぐに帰ることにしたのだが。




離れた体温が少しだけ、寂しかった。