太陽が真上を少し過ぎた頃、その人──奥医師、松本良順はやって来た。
がしりとした体格、僅かに下がった目尻の一見すると柔和な人物。
一先ず局長に案内され屯所を回ったあと、紹介されたその人はやはり立場を鼻に掛けたところもないとても気さくな人だった。
簡単に挨拶を済ますと早速診察に使う大広間へと移動し、今日の流れや何をすべきかの指示を受ける。
その手際の良さは流石将軍お抱えといったところである。
……ほぉ。
松本先生が金具のついた木箱を開けると、中には見たこともない道具がずらりと並んでいる。
思わずじっと見入ってしまった俺に、その人は楽しそうに笑んだ。
「佛蘭西(フランス)の物だよ、気になるかい?」
「ええ、元町医としてはやはり興味は湧きます」
「……御生家は鍼医だったね、なら人体のつぼや急所なんかにも詳しいのかな?」
「そうですね、一応一通りは学びました」
「大きな怪我の患者を診たことは?」
「いえ……死体くらいしか」
そんな問答のあと、松本先生は何かを思案するように視線を落とす。
その事に俺が疑問を浮かべる前に再び顔を上げたその人は、穏やかに目を細めて言った。
「まだ少し時間があるようだし簡単な縫合術を教えておこう。此処にいるならそれくらいは出来た方が良いだろう」
「……え?」
無意識に緩みかけた頬を押さえる。
「良いん、ですか?」
「勿論。これだけの大所帯だ、医術に通じる人間の存在は大きい。出来ることは多い方が良いだろう」
新たな知識が増えること、しかも本来なら遠い存在である奥医者から直々に手解きを受けられる。
これ程嬉しいことはない。
「宜しくお願いします!」


