「……ほなそんなお前さんにこれやるわ」
ことりと油壺を夕美の横へ置く。
「え!?」
「前」
振り返ろうとした頭を再び強引に前を向かせた。
「いーんですか?」
「ええんや、どーせ俺は殆ど使うこともあらへんしな」
それなら、有意義に使てもろた方がええ。
「じゃあ……有り難うございますっ!」
「大事に使いや?」
「はいっ!」
顔は見えないと言うのにその背から喜んでいるとありありと伝わってくるのがまた可愛らしい。
ふっと鼻で小さく笑うと、用意していた結い紐をくわえた。
「どーせ風呂に行くんや、邪魔なるし簡単に結うとくで」
櫛を使って肩に掛からないように少し高い位置で一つに纏め、小さな団子を作る。
「ん、完璧や」
手持ちの中から選んだ橙の結い紐。
うん、やっぱこいつには明るい色がよう似合う。
「烝さんって器用ですよねー! なんか色々持ってるし。どんな仕事してるんですか?」
そう満足げに眺めていれば、出来上がった頭をそろそろと触りながら夕美が問いかけてきた。
……一応ここは黙っとく方が賢明か。変にぺらぺら話されてもかなんしな。
「商いを少しな、色んなもん行商して歩くねん」
「へー! 何かぽい!大阪の商人って感じっ!」
「ほぉ? 大坂知っとんのか」
「はい、小さい頃住んでました! だから烝さんと話してるとちょっと懐かしいんです」
へぇ。そういやつとむちゃんと喋りが同じや言うてたな。
大坂は時が経っても変わらんのかぁ……流石やん。
感慨深くそんなことを思っていれば、朝四つ(10時)の鐘が聞こえてきて。
ふむ、ええ頃合いやな。
「んじゃまーそろそろ出よか」


