何となく渡しそびれて此処まできてしまったもの。
別れ際に持たせてやろうと思っていたが、手持ちぶさたな今なら丁度良い。
「江戸土産の金平糖や。うちの副長がお前さんにてくれはってん」
スッと目の前に差し出せば、夕美は何故かあわあわしながらもそれを受け取り、小首を傾げる。
「え? あ、有り難うございますっ。でも何で私を……?」
「あー前ちらっと話したことがあったん覚えてくれはったみたいでな」
実は一応観察対象やったんやーとは言えへんな……。
当たり障りのない答えを返し、俺は話を変える為、夕美の腕に掛けられていた手拭いを抜き取った。
「お前さんとおると濡れてばっかやわ。実は雨女やろ」
それを頭から被り、わしわしと髪を拭く。
「烝さんが雨男なのかもしれませんよ?」
「阿呆、んな訳あ」
るかい。
反論しようと手を止め、ぱっと目を開けた瞬間、口に飛び込んできた小さな粒に言葉が引っ込む。
目の前には悪戯っこのように笑む夕美の顔があって。
「でも、こんな雨なら私、雨女でいーです」
ガリッ
思わず噛んだ金平糖が甘い。
……心の臓に悪いわ。
そう一人密かに悪態をついた、時だった。
「……あのー」
「はいっ!?」
気が付けば少し離れた所に恰幅の良い初老の男が立っていた。
「ええ感じんとこえろうすんまへんなぁ。お宅ら傘あらへんのやろ?良かったらこれ使い」
にこにこと笑いながら一本の傘を夕美に手渡し、『若いのー』と境内にある建物へと去っていく。
……狼狽え過ぎやろ俺。
気配に気付けなかった自分にそう突っ込んで。
「……帰ろか」
色々とむず痒い気持ちを一先ず押し込めることにした。


