【完】山崎さんちのすすむくん


思わず首を傾げた俺に、夕美は細かな水滴がついた髪を拭いていた手を止め、つん、と俺の懐を突く。


「何でも入ってるってことですよ」



……またや。また、その顔。


今日、暫くぶりに会ったこいつが時折見せるその表情。



女の、顔。



初めて会った時から何も変わらない筈なのに。あの頃はどう見ても幼い童のようにしか見えなかったのに。


どうしてこうも違って見えるのか。



まぁ此処に来てもうすぐ二年半、か。そら見た目は変わらんでも成長するわな。


こいつはようやっとる。知らん土地で、知らん時代で、何事にも逃げんと前向きで、いっつも笑てる。


そうゆぅんは嫌いや……ない。


でも、それがたまに琴尾と被って見える。


これは琴尾やないのに、俺はこれに琴尾を見とるんやないかって不安になる。


気になるんは……惹かれるんはその所為なんかもしれんて。


今の俺はちゃんと『こいつ』を見とるんやろか?


それとも……。



兎に角、今のままやったらあかんのだけはわかる。


俺は、どないしたいんやろか──






「烝、さん?」


ぼうっと見つめていた視線の先で、夕美が遠慮がちに呟く。


「や、なんもあらへんよ」


その頬を指の背で軽く撫でると俺はまた懐に手を入れた。


「何でも入っとるよじげんぽけっとからええもん出したろ」