聞くまでもなく話し始めたその人の言葉にドキリとする。
あの女子、か。
たった一度しか見ていない、知り合いでもなんでもない山南さんの恋仲。
それでも脳裏に浮かぶのはあの幸せそうな笑みで。また腹に抱えたしこりが僅かに重さを増す。
そんな二人のささやかな幸せを壊したのも、俺なのだから──
「あれは芸妓でね、初めは寧ろ苦手にしか感じていなかったのですが」
馴れ初めを思い出しているのか、穏やかに紡がれたその人の声は柔らかな余韻を漂わせる。
顔を見なくても微笑んでいるのだろうと手に取るようにわかった。
「其れ者の割りに表情豊かで、京言葉もあまり上手ではなくて、毎回裾を踏んでひっくり返るような女子でね、本当、会う度に笑わせてもらいました」
……そら、うん、笑うかもしれへんな、色んな意味で。
クスクスと笑いながら話す山南さんに一瞬己の感情がよくわからくなっていれば、その人はスッと空気を変え、静かに呟いた。
「伊東くんは博識です。近頃の近藤さんも何か相談事があれば彼に頼る。私はと言えば一人土方くんと意見を対立させている。相談役としてのお役も御免です。なら今の私を捨て、明里と……彼女と生きるのも良いかもしれないと、思ったのですよ」


