もうその顔には迷いは見えなかった。
もしかしたら捕まえるなら己が手でと思っているのかもしれない。
「……良いだろう」
そんな決意の籠められた眼に満足げに片口を上げた副長は、そのまま視線を俺へと寄越した。
「山崎、お前は山南さんがどの辺りにいるとみる?」
……あの紙には江戸へとだけ書いたった。それが嘘やないと仮定してや、ほなら通るんは東海道か中山道か……。
笑みを消して投げられたその問いに暫し思案して。
「そうですね、大津宿か草津宿辺りで今日は宿をとるのではかと」
そう進言した。
「それは流石に近過ぎやしませんか? 夜に出たのならもっと先へ向かっていると思うのですが」
するとすぐに沖田くんが人差し指を顎にあて首を傾げる。
「いえ、女子を連れているのなら歩みも遅いでしょう。それにあの方ならば此方がそう考えるのを踏まえてあえて近くに宿を取る筈です」
俺やったらそうするわ。
そしたら近くの宿場は探すんも手ぇ抜くやろし、上手く行けば素通りしてくれるかもしれん。
思慮深い山南さんのことや、恐らく定石ではこん。まぁ裏の裏を読んではったらちとアレやけどな。
そう断言する俺に、沖田くんは成る程と目を丸くし副長は不敵に笑んだ。
「聞いたな総司、支度が整い次第出立だ。期限は明日の正午、それまでには戻れ──」
熱気の籠る部屋から出れば程よく冷たい風が庭の葉を揺らしている。
あと一月もすれば淡い花を纏う細い枯れ枝を眺めてそっと息をつき、口の中だけで小さく呟いた。
「……迷いなや、俺」


