その事実には流石に俺も驚きを隠せなかった。
……江戸?
もしかせんでも昨日のあれはまさにそん時やったんか? 大小も下げてへんかったし荷物らしい荷物は持ってはらへんかったのに?
ちゅうかちょい待ちや、副長が知らんっちゅうことはやで? 無断で出てかはったってことやろ?
それって──
「脱走か」
まるで俺の言葉を代弁するかのような間で副長が言葉を漏らす。
低く淡々とした声音は恐ろしく冷ややかにも聞こえる。
だが、俺は知っていた。
このお方が手を口許に当てている時は、その動揺を内に隠そうとしているのだと。
この新選組の総長が、しかも昔馴染みであるその人が禁忌をおかしたんや、そら誰かて動揺するわ。
──局ヲ脱スルヲ不許(キョクヲダッスルヲユルサズ)
法度に記されたそれを破ればそこにあるんは粛清、切腹や。
「まず副長に話すべきと思い此方にやって参りました。どう、なさいますか」
間違いなくこの新選組に大きな影響を与えるであろうそれに、斎藤くんも珍しく迷ったのだろう。
真剣な眼で副長を見据え発した言葉には含みが見えた。
勿論副長がそれをわからない訳はない。
が、
「否、誰であろうと法度破りに例外はねぇ、寧ろ総長だからこそだ。このままあっさり取り逃がしてみやがれ、下に何て言われっかわかんねぇぞ」
眉間に皺を寄せ、くしゃりと紙を丸めるとそれを火鉢へと放り込んだ。
「お前ら、今すぐ助勤連中を集めろ。局長へは俺から報告する」
「承知」
そうと決まれば昨夜のアレも報告対象や。
斎藤くんの言葉に間髪入れず、俺は口を開いた。
「副長、一つ、報告が──」


