何となく心がざわつくのは乱破としての直感だ。
そんな衝動に従い、俺は気付かれぬよう密かにそのあとをつけることにした、のだが。
屯所の敷地から然程離れぬ長屋の陰で、その人は同じく提灯を持った町娘とおぼしき若い女子と睦まじげに微笑みを交わす。
……なんや、ただの逢い引きかいな。
しっかしなんもこないおっそい時刻に逢わんでもええやん。
まぁまだ日付変わるまでは半刻程あるし? 隊規に触れる訳ちゃうさかい別にかめへんけどや。
ちょこんと屋根の上にしゃがみ込み、月明かりが照らす男女に思わず口を尖らせた。
その間にも山南さんは空いた方の手で女子を僅かに抱き寄せて。
……これ以上は無粋やな。
まぁんなとこで会うとるくらいや、すぐ戻りはるやろ。
そんな二人に何故か再び頭をもたげたモヤモヤを奥へと押し込め。
藤堂くんに引き続いて二人目となる同じ釜の飯を食う仲間のいちゃつく姿にぽりりと頬を掻いて、俺はその場を立ち去ることにした。
そして、朝。
「……山南さんが、いねぇ?」
丁度副長室で今日の隊務について話をしていた俺達二人の元に、一段と尖った空気を纏った斎藤くんがやって来て。
中へと入るとその人はちらりと俺を一瞥し、折り目正しい居住まいでまさかの言葉を発したのだった。
「はい、朝餉の時に姿を見なかったので少々気にかかり、先程借りていた本を返しに部屋へ行ってみたのです。するとこのような物が文机の上に」
そう言って斎藤くんは一枚の紙を差し出す。
そこに書かれていたのは──
「『江戸へ』、か」


