……なんやろ、隊務よりなんより緊張したぁ……。
腹に溜まった靄(モヤ)を吐き出すように一つ息をついて、俺は長屋の壁へと背を預けた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返し、少々苔むした向かいに立つ長屋の壁に視線を落とす。
「なん……やったんやろ」
いつもと違ったのは始めからだった。
でもそれは林五郎の件があったからだと思っていた。
まぁそれも間違ってはいないのだろうが、恐らくそれだけでもない。
「……林五郎の、阿呆」
流石に気が付いてしまった。
その内に潜む淡い想いの片鱗に。
夕美自身それに戸惑っている風ではあるけども。それでもあれの中で俺がそういう対象としてあることはきっと自惚れではない筈で。
聞きたくないと思っても、分からない振りをしてみても、その想いの端に触れてしまった今、見ない振りは出来そうにない。
「……なんでやねん」
そらあれの抱える特異な事情を知っとるんは俺だけかもしれんけど。
拠り所であろうとは思ったけどや。
別にこない歳の離れたオッサンやのうても林五郎でええやんか。
顔かてよう似とるし歳かて若いねんし、何よりあれはお前さんを好いとるやろ。
それに、俺は……。
「……なぁ?」


