「ほら、拭いたるさかいこっち向き」
端を少しだけ濡らした手拭い片手に夕美に向き直る。
「へ? まだ付いてましたっ!? や、それくらい自分でやりま」
「えーからほれじっとする」
パッと口許を覆ったその小さな手をぺろりと剥がし、既に乾いたそれを拭ってやる。
「こんなんつけとる内はまだお子ちゃまや」
「う……だって懐紙ってカサカサして拭きにくいんですもん」
「お前さんの拭き方が雑なだけやしな」
視線を横へと逸らし、拗ねた顔でぶーたれる夕美を見ているとやはりどこか懐かしさを覚えてつい顔が綻んだ。
こーゆー反応はなんでか林五郎みたいやねんなぁ。
昔っから姉ちゃんっ子で、俺にヤキモチ妬いてはすぐ拗ねとったっけ。
まぁ今も大して成長しとらんけどな。勝手に拗ねて勝手に振られた宣言して。なんやよぅわからんけど猪突猛進ってのはあいつみたいなん言うんやで。
……琴尾はその分落ち着いとったけどな。
そら抜けとるとこもあったけどふんわりしとった割りに結構でんって構えとったし。
まぁ上の兄ちゃんらも騒がしかったもんなー紅一点で強なるしかあらへんかったんやろけど。
そんな遠い記憶を脳裏に浮かべて目の前の新たな妹を見つめていれば、そいつはちらりと遠慮がちに視線を寄越した。
「……奥さんにも……こんな風にしてたんですか?」


