「ご馳走様でした。なんかいつもごめんなさい」
店を出た途端に襲い来る冷たい風に思わず首を竦めた時、夕美が毎度の言葉を発する。
二人で会う時の金は俺が出しているからだ。
「せやからええねんて、どうせ他にあんま使うこともあらへんしな」
他の連中みたいに花街行く訳ちゃうし、沖田くんやら島田やらみたいな食べ歩きもせぇへん。
最初ん頃より給金増えたけど特に使い道もあらへんねんなぁ。
「ま、お前さんはんなこと気にせんと素直におにーさんに甘えとき。んでそこは『ごめん』やのうて『おーきに』の方が嬉しいな」
ぽんぽんと頭を叩いてニッと歯を見せる。
そうすれば夕美は何故か微妙に口を尖らせ拗ねたように上目で俺を見上げてきた。
「有り難うございます。でもっ、こっちの数え方だと私もう二十歳ですよっ、そろそろその子供扱いやめてほしいんですけどっ」
……、二十歳? そーいや拾てから一年ちょっと経ったんやっけ。
なんて思いながら夕美に視線を這わせる。
ぷうっと膨れた頬に寒さで赤くなりつつある鼻。
そして明らかに拭き残しであろう懐紙で拭った汁粉の跡が微かに口の横に伸びていた。
うん、間違いなく二十歳にゃ見えん。
「もー! なんで笑うんですかっ」
「はは、すまんすまん、やっぱりかいらしなー思て。ちょいこっち来(キ)ぃ」
その手を引いて裏路地へと入る。
向かうはすぐそこにある井戸だ。


