……ふむ、林五郎が振られたっちゅーことはや、夕美が林五郎を振ったっちゅー訳か。
何故か動きの遅い頭でもう一度自分に言い聞かせてみる。
ほなもしかして伊東くんが昨日見たっちゅうのんて……ばっちしその場面、やったり?
それならばあの人の苦笑いも言い難そうにしていたのも頷ける。
振ったんや……。
そんなことを思いながら俺は無意識に拳を口許へと当てた。
指の先がとくとくと脈打つのを妙に生々しく感じていれば、再び俯いていた林五郎が地を見つめたまま小さく呟く。
「それ、言いに来ただけやし。……帰る」
ぶっきらぼうにそう言うと林五郎はくるりと背を向けて走り出した。
「あ、ちょ……!」
足の早さだけは韋駄天顔負けのそいつはあっという間に通りを駆けて行って。
……ようわからんやっちゃな。
追いかけるのを諦めた俺は半開きだった口をそっと閉じ、長く息を吐き出した。
なんでそんなんわざわざ俺に言いに来んねん。
そら先に夕美と知りおうたん俺やけどや、恋仲なったんやったら兎も角やで? 別にあとつけてきてまで振られた報告しに来んでええし。
それに俺のこと避けとったんはお前やないかい。んなこと言うて俺にどないして欲しいねん、よしよしか? ぎゅーか? ほなら逃げんなやっ。
内心ぶつくさ文句を言いながら頭を掻いて風呂へと歩き出す。
何故か心の片隅でほっとした自分に戸惑いつつ、闇に染まり始めた空を理由にふるりと首を振って、俺はただ黙って足を早めたのだった。


