く、さんて。なんや臭そーやん。
「歳は気にせず呼びやすいように呼んでくださって構いませんよ」
別に気にせぇへんし。原田くんやらはフツーに呼び捨てやしな。
「あ、ハハ……すまない、どうも『さん』って感じに思えなくてね……コホン、じゃあ改めて山崎くん」
ぽりぽりと頭を掻きながら、嬉しいのか嬉しくないのかよくわからない言葉を溢すと、伊東くんは改めて仕切り直す。
「昨日はずっと屯所にいたよね?」
しかしながら投げ掛けられたその不思議な質問に、思わず首を傾げた。
藪から棒になんやねんな。
だが単純に『出掛けた?』でないその質問の仕方に小さな違和感を覚える。
「……ええ、昨日は屯所内での任務でしたので。何か?」
「あ、なら良いんだよ。すまないね、可笑しなことを聞いて」
「町で同じ顔でも見ましたか?」
「あ……うん、まぁ……ね」
困ったように微笑する、歯切れの悪いその様子にようやっと合点がいく。
林五郎を見たんか。しかもちいっとばかし気になるよなことをしとったと。んで俺っぽくなかったさかいに念の為確認してみたっちゅうとこか。
何しとったんやあいつ……。
こんな風に話を濁すということは恐らく素行云々ではなく極々個人的なこと。
十中八九夕美と一緒におるとこ見られたっぽいな……。
なんて気にはなるものの、これ以上はこの人から聞くべきでないし、この人も教えるつもりは無さそうだった。
まぁしゃあないな。
気付かれないよう細く息を吐くと、俺は僅かに笑みを浮かべる。
「そうですか。よく似た顔ですからね、ややこしくて仕方ないんですよ」
「ああ、確かにあれだけ似ていれば大変そうだね……」
そう当たり障りのない会話をしながら足を進める。
けれど内に湧いた靄(モヤ)のような塊は、何故か消えることなく腹の奥に漂い続けていて。
……、もーなんやねん……。


