【完】山崎さんちのすすむくん


どんなけ自分の腹好っきゃねん。


金物の味を知っとるんかなんや知らんけどな、売り言葉に買い言葉で短気おこして切腹したとかホンマただの阿呆やしな!


名誉の傷ちゃうし、阿呆の証拠や。


阿呆は殺しても死なんゆうんは自分の事やで。


不本意そうではあるものの大人しく刀を納めた斎藤くんと、しょぼくれた二人を横目に、気を失っている井上さんの腹を診(ミ)る。


「……大事有りませんね、朝には目覚めるでしょう」


軽く手で押し、内腑に損傷が無さそうなのを確認すると汚れた寝巻きを着替えさせ。


「ではあとは宜しくお願いします」


この場で唯一頼れる沖田くんにそう頼んで部屋をあとにした。




──山崎は夜でも私闘の臭いを嗅ぎ付け現れるらしい



そんな噂が隊士達の間でまことしやかに囁かれているのを俺が耳にするのは、もう少しあとのことだった。














「わかった。それだけか?」


文机に向かい筆を走らせる副長に一日の報告を終える。


いつもの如く逞しい背を此方に向けたその人の問いに、俺は昨夜の助勤らの出来事を簡単に話すことにした。




「──ということがありました。原田助勤の言い方からして初めてではないようですね。最近平隊士の部屋でも同じことが多々あります。僭越ながら申し上げますと、此処も少々手狭になってきたかと思うのですが」


今現在助勤らの部屋で九人。平隊士らはもっとぎゅうぎゅうや。


夜中誰かが厠行くてなったら大抵揉めとる。踏んづけたやら蹴ったやら。各々刀の置き場もあらへん。


この半年でこんなけ増えたんや、きっとこれからもまだ増える。


流石にこれ以上は屯所として家間借りしとる八木さんらにも迷惑や思うし、どないかせんとあかん気ぃすんねんけど。



俺の言葉を聞き終わると副長は暫く黙って筆を滑らせ、おもむろにそれを置いた。