五十冊の本を四度に分け監察方の部屋へと運び終わると、その足で勝手場へと向かう。
八ツ刻も過ぎて僅かに日が西へと傾き始めた今時分、夕餉の支度が始まっているだろうからだ。
しかしながら土間へと続く少々立て付けの悪い木戸に手を伸ばそうとした時、中にある気配に思わず眉が寄った。
──刹那
「うおーっ!? ヤベェ新八噴いてる噴いてるっ!」
「へ? うわわっ!? ってあ゛っぢぃっ!!」
中から聞こえた原田くんと永倉くんの叫びに戸に掛けた手が止まる。
なぁにやっとんねん……。
溢れ出る溜め息を大きく吐き出し、想像に容易い惨状に足を踏み入れることにした。
「……、大丈夫ですか?」
中を見やれば、竈(カマド)に掛かった羽釜からは未だ沸々と米の泡(アブク)が溢れている。
床には火吹き竹が転がり、野菜の浮いた盥(タライ)に両手を突っ込む永倉くんに右往左往する原田くん。
何があったか確認するまでもない。
釜見んとぷーぷー火ぃ吹いとったんやな。んで噴き溢れて慌てて触ったと。うん、相変わらず阿呆や。
「や、山崎良いところに! 新八が」
「火傷したんですね。取り敢えず泥水じゃなんです、井戸で冷やしますよ」
そう言って永倉くんを表へと促し外に出る。
「……え、あと俺一人……?」
原田くんのそんな呟きは一先ず聞かなかったことにした。


