確かに俺は近藤局長に三國志演義を薦められた。山南総長なら持っているだろうと借りに来た。
それは間違いない。
が、それだけでもない。
最近あんま表に出てきはらへんからどないしたんか思たけど結構普通やな。
前はよぉ縁側に座って本読んではったり、そこらの隊士らと話したりしてはったから違和感あってんけど……。
「すみません山崎くん、やはり此方に来てもらっていいですか?」
「あ、はい」
そんな思考を遮る総長の声に、俺は少々狭い入り口から中へと入る。
そしてにこやかに笑うその人の指が指し示す物を見ると思わず目を丸くした。
「……これ全部、ですか?」
「ええ、『通俗三國志』全五十巻。翻訳されてるから読みやすいと思いますよ」
ごじゅ……。
でーんと存在感を露(アラワ)に佇む本の山は流石に予想外だ。
……頑張れ俺、こーなったら読むしかあらへん。暫くは非番返上で読みまくったろーやないかいっ!!
「お借りします」
内心密かに拳を握り、目の前の山へと手を伸ばす。
持てるだけを両手に抱え立ち上がった時、隣に佇むその人は穏やかな微笑を更に深めた。
「差し上げますよ」
それは、至極意外な言葉だった。
誰の目から見ても本が好きで、暇さえあれば本を読んでいるこの人が。まるで貸本屋の如く多種多様な本を集めているこの人が自ら本を手放すなど──
あり得んのやけど。


