て、そーやなくてや! ペロッと喜んでどないすんねん俺っ。


あかん、最近どーも若いやら老けたやらに過敏になっとるわ……。


はははーと爽やかに笑うその人についつられて笑いそうになったのを慌てて引き締める。


「あの、私三十一ですよ?」

「ほー……ぉお!? と、歳上ですかっ!? ……是非ともその秘術を私にも伝授致してもらえぬだろうかっ!」


秘術て。俺は何もんや、陰陽師かなんかかっ!


ちゅーかがっつき過ぎやろ。そら俺かて肌には気ぃつことるけどあくまでし・ご・と・が・ら! 必要やからやで?


まー色男気取るんもそれなりに大変なんかもしれんけどや……。


俺の両肩をがしりと掴み、真剣に見つめくるその男に若干引きながらも、まずは懐に入る為にと正直に答えることにした。


「秘術などではありませんが、やはり一番は花の露(江戸前期から明治まで販売されていた当時人気の化粧水の名)でしょうか」

「ほほぅ花の露! 私は専ら江戸の水(こちらも化粧水の名)ばかりだったのだが次はそっちに変えてみることにしよう!」


既に別のんつことったんかいっ!!


こいつ中々やりよるな……。


なんて思いは内に留め、是非、なんて微笑む俺に、伊東くんもまた白く磨かれた歯をキラリと輝かせて爽やかに笑った。


「いやぁ貴殿のような意識の高い人間がいてくれて良かった! また何か相談するかもしれないがその際は宜しく頼むよ」


今んとこ取り立てて裏のあるようには見えんけど……局長もやたら気に入ってはるし、門弟の連中にも慕われとるみたいやし。


せやけどそこがな……変な派閥に割れんかったらええねんけど。芹沢さんらみたいに対立するんは勘弁やで。


ま、ゆーてもそれはどーしょーもないねんけど。


取り敢えず暫くは他の連中ひっくるめて様子見、やな。



「ええ、こちらこそ宜しくお願いします」