研ぎ澄まされた苦無の先端を僅かに押し当てれば、ぷつりと小さく穴の開いた皮膚からは一筋の血が流れる。
脅しではないと言う意思表示だ。
流石に殺気を感じとることくらいは出来るのか、そいつの喉仏がごくりと上下する。
「わ、わかった! 放す! 放すから!」
常人(ツネビト)ではないと悟ったのだろう。たじろいだ男が夕美の首に回していた腕をゆるゆるとほどいた。
そして夕美がそこから体を離したのを確認すると、
「っ!?」
男の首に手刀を落とした。
どさりとその場に崩れ落ちたそいつを一瞥し、傍で慄然とした様子で逃げようとしていた仲間にも同じくさよならしてもらう。
……確かもうすぐ巡察の連中がこの辺通りやる筈やな、あとはそっちに任せよか。取り敢えず動けんように縛っとこか。
そう懐に潜ませてある襷を取り出そうとした時──
「烝さんっ」
背に夕美が飛び込んできた。
「……怖かった……っ」
俺の長着をキュッと掴むその声は震えていて。そいつが感じていた恐怖が伝わってくる。
……そら、そやな。
刀を下げ、見るからに厳つい悪人面の男二人に人目の届かぬ路地へと連れ込まれたのだ。
恐怖を感じぬ筈がない。
「夕美」
そう声を掛け、ゆっくりとそいつに向き直る。
そして未だ頼りなげに眉を下げたその背にそっと手を伸ばした。
「すまんかったな」


