……大丈夫、か。


捲し立てるように言い切ったあとも忙しなく鼻を啜る夕美に、自然と浮かんでくるのは笑み。


何が大丈夫なんかようわからんちゃようわからんけどな。


それでも、そいつの言いたい気持ちは伝わってきたから。



「ん、おおきにな」



心から笑うことが出来た。


そんな俺に、夕美もごしごしと顔を拭いながらへへへと小さく笑う。


『あの事』を話した直後だと言うのに不思議と心は凪いでいて、とても──穏やかだった。


一年前は、こんな風に話せる日が来るなんて思てへんかったのにな。


夕美の言う大丈夫はきっと……このこと。



「お前さんの言う通りや、俺も家族や仲間に救われとる。勿論夕美」


袖を掴むその手をそっと外し、自由になった腕でその頭を撫でた。



「お前さんにもな」



……やっぱりこいつは強い。素直で前向きやし、へこたれん。ええ人らに愛されて育ってきたんがようわかるわ。


早よう帰してやれたらええんやけどな……まぁ、それまでは俺が支えになったらなな、うん。


さらさらと滑らかなその前髪を何気無く掬っていれば、両の手に拳を作った夕美が突然意気込む。


「すっ、烝さんがそうやって笑えるなら私頑張ります!」


一瞬それに目を丸くしたあと、俺は肩を竦めて小さく笑った。


「や、別にお前さんは気張らんでええよ。気張らなあかんのは俺や」


いつまでも情けない男でおる訳にもいかんしな。


俺が守るんや、一人でも多くの人間を。



勿論、こいつも。



「せやから、お前さんは大人しゅう守られとき」