「……醜いやろ?」



夕美の顔を見ることもなくただ滔々と過去を吐き出して。


俺は漸く空を仰いだ。


いつの間にか空を覆っていた薄雲は途切れ、月は澄んだ輝きを放っている。


それは全てを吐露し、どこかすっきりとした俺の心を表しているかのようだった。


「俺は、あの人に会わへんかったらこの手であいつを殺しとった。己の感情を琴尾の為やと言い訳してな。……弱くて、ずっこい男やで」


溢れるのは苦笑。


……でも、



「これが俺やねん」



聞いとって欲しぃ思たんや。


お前さんが此処で唯一の拠り所や思てる人間が如何に情けない男なんかを。



ほんまもんの俺を。




「……烝さんは」


それまで一言も発しなかった夕美が、鼻を啜りながら震えた声で呟く。


そこでやっと俺もそいつの方へと顔を動かした。


「烝さんはっ、弱くなんてないです! そんなことがあったら、誰だって……誰だって相手を憎いって思いますよ!」


未だに俺の袖を握る手とは反対の袖で涙を拭うと、しゃくりあげながらも必死に言葉を紡ぐ。


「私も、小さい頃両親を事故で亡くして……訳もわからないまま、親戚の家に、引き取られたんです。大分あとになって、相手が飲酒運転だったって聞いて……恨んだ時も、ありました」


所々意味がわからないものの、意外なその言葉に瞠目する。


二親ともおらんのか……そんな素振り、今までなんも……。


「……っ、でもっ! 今は幸せだって思います! 『お父さん』も『お母さん』も優しくて、大好きだから。幸せ、なんです! ……だから」


零れた涙をもう一度拭い、それは真っ直ぐに俺を見た。



「烝さんも、大丈夫です!」