「……知り合いか?」
目の前の光景に瞬き一つ出来なかった俺に、見知らぬ男の声が届く。
静かに降り注ぐ雨の音も、
髪を、頬を伝い落ちる水滴も、
重く冷たく肌に纏わりつく濡れた着物の不快感さえも、
最早この世の理(コトワリ)の何もかもがどうでも良かった。
目の前の事実を、受け入れたくなかった。
受け入られる訳が、なかった。
「……こと……お?」
提灯の薄暗い灯りに照らされたのは、琴尾であって、琴尾でない。
乱れた髪。乱れた着物。頬に付いた痣。
眠るようにそこに横たわるそいつの体は泥にまみれ、鮮やかな山吹色の長着はどす黒く変色した血で染まっていた。
何があったかなんて、聞かなくてもわかる。
「……こと……」
恐る恐る触れたその頬は、雪のように冷たくて。
もう、動かないのだと、思い知らされる。
まるで呼吸の仕方を忘れたように息が、出来ない。
「…………っ」
なんで……なんでや……なんでこんな……っ!!
突き上げるような衝動のまま、その首元にすがり付く。
そこにはいつもの温もりも笑みもない。
触れ合う頬は只々冷たく、残酷なまでに俺に琴尾の死を突きつけた。
雨なのか、涙なのか。
俺を濡らすそれが何なのか、もうよくわからない。
どうすることも出来ず、ただ無言でその体にすがってどのくらいの時が経ったのだろう。
「……これが、側にあった」
そんな声が、聞こえた。


