琴尾……っ。
うちを出てからもう半刻程は経っただろうか。
相変わらずその姿は何処にもなく、不安はどんどん大きくなっていく。
焦燥、苛立ち、もどかしさ。
喉の奥に何かが詰まったような息苦しさに、気が付けば噛み締めていた唇からは血が滲んでいる。
土砂降りだった雨は漸くしとしととしたものへと変わり。
黒い川の水音煩い四条大橋に差し掛かった丁度その時。
…………ん?
俺はふと暗闇の向こうに提灯の灯りがいくつか集まっているのを見つけた。
それは一本北側にある三条大橋の袂の辺り。
本来ならば歩き進んでいく筈の灯りがその場に漂うことから感じるのは不穏な空気。
否が応にも湧きあがる嫌な予感に、俺は走り出した。
……違う、絶対違う、あれは琴尾とは関係ない。関係、ある筈がないんや……っ!
そう、己に言い聞かせ。
足元を泥まみれにして辿り着いたその袂。
大小を下げた数人の男の視線の先には、僅かに膨らんだ濡れた筵(ムシロ)。
それを目にした途端、心の臓が大きく脈打った。
……違う、よな?
──バシャン
「ん? なんだお前……」
俺は手にしていた傘と提灯をその場に捨て、怪訝に見つめくる男達の間をすり抜けた。
虫の知らせ、とでも言うのか。
筵の前に膝をつくと、俺は何故か震える指先でそれを掴み。
「おまっ……」
一気に捲った。


