それは夕七ツ(四時半過ぎ)の鐘が聞こえた少しあとのこと。
「うわー降ってきよった」
突然石が降ってきたかのような凄まじい音が辺りを包んで。
勝手場で飯炊きをしている林五郎が声を上げた。
ちょい前から風びゅーびゅー吹いてたもんなぁ、やっぱり来たかぁ。こらさっき帰ったまっさんずぶ濡れやな。
……琴尾はどないすんねやろ。
何てことを考えながら、丁度手が空いていた俺は窓を閉めつつ、林五郎の様子を見に隣の勝手場に向かった。
「……なんや焦げ臭いねんけど」
「あ、お兄っ。……へへ、魚の尻尾燃えてもた。でも大丈夫や! 尻尾だけやさかいに!」
……ほんまかいな。
「それよりっ、お姉はこの雨大丈夫かなぁ?」
思わずじとりと目を細めた俺に林五郎は慌てて話を変え、ほんの少しだけ窓を開けて外を見た。
空を埋め尽くす分厚い灰色の雲のお陰で、まだこんな時分だというのに外はかなり薄暗い。
何となく嫌な気持ちになるのもきっとその所為だ。
そんな思いを振り払うようにして、俺は言葉を返した。
「すぐ止んだらええねんけどな……」
けども雨は降り止まん。そんな中、暮六つ(七時前)が迫ってもあいつは戻って来んかった。
もう辺りは真っ暗や。濡れて戻ってきとってもおかしない。
流石に俺も林五郎も心配になってな、二人で町に探しに行くことにしてん。
せやけど当てなんかないから。
林五郎は大坂に出入りする人間の要所である伏見の方に下がって。
俺はいつも賑やかで人通りのある四条界隈を探す為に北にあがってくことにしたんや。


