一瞬、はっとしたように口をつぐんだあと、夕美は目の力を強めた。
「……嘘、つかれて私、ちょっとだけ怒ってるんですからね。……ここで頼れるの、烝さんだけなんです。烝さんが何者でも構いませんから……もう隠し事は無しにして下さい」
俺の袖をきゅっと摘まんで訴えくるそいつは、瞳の奥を揺らしながらも真っ直ぐに俺を捉える。
これまでの不安や心細さや寂しさを詰め込んだようなそれに、胸がざわついて。
……隠し事、か。
「ほな、これも……聞いてくれるか?」
そんな言葉が、突いて出た。
僅かに顎を上げ空を仰ぎ見ると頭上には輪郭のぼやけた月が柔らかな光を放っている。
柔らかく吹いた一陣の風が頬を優しく撫でていって。
「俺が新選組に入ったきっかけと、志しとるもの、や」
今なら話せる。
……や、話したい。
「あいつが……琴尾がおった頃は俺は乱破でもなんでもない、ただの町医やってん」
そう、思ったんや──
***
その日、琴尾は珍しく朝から出掛けたいっちゅうて、一日暇をとることになっとった。
京に上ってもうすぐ五年になろうかっちゅう頃や。
毎日にこにこと俺を支えてくれる琴尾には感謝こそすれ、不満なんかある訳もなくてな。
俺は特になんも考えることもなく、その日の朝を迎えたんや。
「ほな、行ってくるけど」


