はっと、夕美が顔を上げる。
そして目が合うと素早く立ち上がり、小さく呟いた。
「……今、出てきたとこです」
でこに手の跡ついてるけどな。
「……そか。ほなま、行こか」
だけどそこは今突っ込んで話すとこじゃないから。
こいこいと手招きすると、夕美は緊張したような拗ねているような、若干他人行儀な様子で軒下から出てきた。
「どこ行くんですか?」
静かに歩き出すと、半歩後ろからそんな声が聞こえて。
その微妙な距離に一抹の寂しさを覚える。
いつもどちらともなく手を繋いでいたから──
……て、何でやねん。
そんな気持ちを誤魔化すように俺は頬を掻いて前を向いた。
「まぁ立ち話もなんやし、ゆっくり座れるとこ」
そうしてやって来たのはすぐ近くにあるとある寺の前。
日が落ちて一刻半は経つ今時分、勿論門は固く閉じられている。
「ちょっと烝さんっ、まさか忍び込む……とか?」
おもむろにその門を見上げると、袖をくんくんとひっぱりながら夕美が恐る恐るといった感じに話し掛けてきて。
俺は目を細め、にっこりと笑みを作った。
「その、まさかや」
「……へっ」
こうなりゃ遠慮はなしや。
顔の引きつった夕美を有無を言わさず腕に抱き塀に飛び乗る。
目指すは本堂の屋根。
「ひぇっ!? す!」
「はいはーい、ちぃと静かにしとってやー」
慌て声を上げようとした夕美を軽くたしなめ。
静寂に包まれた夜の境内を、ふわり駆け抜け辿り着いた広い瓦屋根の天辺。
その棟の側に立ち止まると、俺の胸ぐらにしがみついて固まるそいつに声をかけた。
「着いたで、降りれるか?」


