これだけの騒ぎがあっても町の人間は表立って野次馬などはしない。
戸や窓の隙間から密やかに覗き見て終わり。
己の身の守り方をわかっているからだ。
余計なものには関わらない。
自ら火の粉を引き寄せる真似はしないに限る、と。
故に、一見静まり返った夜の三条通りを、夕美はとぼとぼと歩いていた。
……心配し過ぎたか。
池田屋よりも東にある藤田屋へは鴨川を僅かに越える。
とりあえず帰るん見届けてから池田屋に……。
と走る速度を緩めた時、そいつはふと立ち止まり、何故か様子を窺うように脇の細い路地へと近付いていく。
なんか──おる!
そう思った瞬間、体が自然と動き出していた。
月明かりの届かぬ暗がりから武骨な腕が夕美を捕らえようと伸びて。
俺は玉簪を模した飛苦無を髪から引き抜き、直ぐ様その手に向かって投げつけた。
「ぐ……っ!?」
短い呻き声が上がり、甲に簪を刺した手がその引っ込んだ隙にも、俺は距離を詰めていく。
そして、
「何しとんじゃこんボケがあっ!」
二人の間に割り込み男の鳩尾に思い切り蹴りを入れた。
「がっ!!」
土の上を滑るようにして路地裏に倒れたのは小汚ない浪士。
池田屋の騒ぎから逃げたか、様子を窺っていた長州の人間か。
兎も角それが動かなくなったのを確認すると、俺は後ろで目を丸くしていた夕美の頭をひっぱたいた。
「何ホイホイ近付いてってんねんっ! 警戒心持てって言うたやろがっ」


