遠目に四国屋の暖簾を捉えた時、丁度中から浅葱の羽織を着た人物が姿を表す。
「土方副長!」
渋面に口許を結んだそのお方だ。
「山ざ……って何だその足っ!」
此方を向いた途端、切れ長のその目を珍しく丸くされる。
「すみません、少々走り難かったので。急ぎますのでこのままで失礼します。池田屋二階にて奴らの会合を確認、先程近藤局長らが交戦開始致しました」
裾をからげたままと言う見苦しい格好だが今だけはお許し願いたい。
跪き、要点だけをざっと報告し終えると、あとに続いて出てきた隊士達もざわめきたつ。
「……ふん、長州藩邸のすぐ裏とは中々良い度胸してんじゃねぇか」
青白い月明かりに照らされたその顔が、不気味な程妖艶に口許に弧を描かせた。
「それとも逃げ込む気満々ってか! おいてめぇら急げ、直ぐ様加勢する! 逃がすんじゃねぇぞ!」
「応っ!!」
腰に下げた大小が、羽織の下に着込んだ鎖帷子(クサリカタビラ)が、重そうに音を鳴らして走り出す。
こうなれば俺が表だって彼らの役に立つことはない。
俺はあくまで、影。
故に刀を下げることはないのだ。
だがしかし、怪我人が出ることは必至。
……それに……。
仄かに燻る不安を胸に抱き、俺もまた闇に染まる通りを駆け出した。


