二回に分けて運んだ善には酒はない。と言うかまだ人が集まるだろう此処で先に飯を食うこと自体可笑しい。
……飯を食うこと以外が目的でない限りな。
考えれば考えるほどに疑惑は確信へと変わっていく。
一応人が集まってくる前に一手打っといた方が賢明やな。
「今日はお酒、飲まはらへんの?」
善を整えながら近くにいた男に微笑みかける。
「ああ、今日は良い」
「折角の祇園の宵々山どすえ。ちょっとくらいええやないですか」
「だが」
「なんならうちがお酌しますさかい……御一献、どうどす?」
上目にその目を見つめ、艶然と笑む。
飯炊き女(旅籠で給仕と共に遊女を兼ねた女)のように。
するとごくりと喉仏を動かした目の前の男よりも先に、窓際にいた男が口を開いた。
「良いよ、少しくらい飲んでも。じゃないと馬鹿馬鹿しくてやってられない。元々僕は反対だったんだ、なのに……」
「栄太郎さんそれはっ」
窓枠に腰掛け、外を見たまま独り言のように呟いた男を、別の男が慌てた様子でたしなめる。
年は変わらないように見えるが、その栄太郎という男は他の連中より上位なのかもしれない。
どこか憂いた表情が絵になる、緩く結んだ長い髪が印象的な中々の美丈夫だ。
「ま、いいや。さっさと持ってきてよ」
「へえ、只今」
「あ、でも酌はいらない。媚を売るしか脳のない女は嫌いなんだ。置いたら出てってくれる?」
「……へえ、ほなすぐお持ちしますさかい」
ほんの少し眉を下げ、寂しげに微笑んで一先ず部屋をあとにする。
トンっと襖を閉めた俺は、急な階段を降りながら拳を握り締めた。
なぁんかあいつめっさ腹立つんやけどぉーっ!! ちいっとばかし顔がえーからって女舐めとったらあかんでぇ!!
……俺女ちゃうけどっ!


